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マイ・フェイバリット・ミステリー開始しました!































        マイ・フェイバリット・ミステリー

 過去ログです.
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 (1)
 4月.
 俺は親兄弟に内緒で,この部屋にこもって推理小説を書いている.恋人を
 狙うストーカーを,巧妙なトリックで撃退する話だ.リアリティーには自信があ
 る.
 もっとも,書き始めたばかりで先は遠い.
 その上,一つ気に掛かっている事がある.俺がバイトしているバーのマスター
がここへ来ることになっているのだ.「今使っている部屋(ここ)が元酒蔵で,いい
ワインを見つけたんですよ.鑑定してもらえますかの一言で,マスターのヒゲがぴ
くぴくした.あれは絶対興味のある顔だ.
 廊下に足音がする.
 マスターだ.
 私は,マスターの肥満体を思い浮かべた.そして案の定,地元のプロ野球チー
ムである東京ヒーローズノデーゲーム試合を報ずるラジオを持参しているらしい.
音がガーガーなっているのが分かる.
 ドアを開けると,マスターは「いいのか」と聞いてきた。俺は驚いた。マスターの
声はまるで相撲取りのように潰れていたのだ。
 「あのー」鑑定するなら現物があったほうがいいから、マスターの秘蔵品を一本
持ってきてもらう約束だった。しかし、マスターはラジオのほかは何も持っていな
い。
 「シー!」マスターはラジオに聞き入っていた。実況放送では「ジョーダン監督は
 代打に抑えの投手のシロタを投入してきました」といっている。
 マスターはにやりとした。
 「タシロ・・・じゃないですかねえ」と、解説者は言う。「シロタとタシロは、ジョーダ ン監督には価値がえやすいのではないですか?」
 「絶対間違いだな」とマスター。「ほれ、良く聞いてみろ」
 俺はラジオに耳を近づけた。
 そのとき、いきなり後ろからマスターの太い腕が首に巻きついてくる。
 俺は抵抗したが、身体をバタバタさせることで余計に首が締まる。
 「何で・・・」これが、俺が意識を失う前に最後に浮かんだ言葉だった。
                            
(2)
 死んでしまってから自己紹介するのもなんだが,俺は小川原英次.28歳フリーターだ.
 俺を殺したのは別所鷹三.バーのマスター.年のころは41か2.世界中で俺が一番嫌いな男.

 我に返ると,俺は部屋の真ん中で肩で息をしていた.自分が黒いジャンパーを着ているのも分かった.さっきまでTシャツ一枚だったのだから,当然か.
 −−−異常にサイズがデカイ.声もつぶれている.
 そうだ,俺は別所に首を絞められたんだ.
 別所はどこだ?
 足の裏のぐんにゃりした感覚は何だ?
 俺は自分が見ているものが信じられなかった.
 細くて折れ曲がった身体.Tシャツ姿で横たわっている.
 倒れているのは−−−『俺』だった.
 では,見下ろしている俺は?
 急いで洗面所の鏡の前に立つ.
 肉のだぶついた頬.これはどう見ても,別所鷹三の顔だった.
 俺ハ別所ニ襲ワレタ.
 ナゼ?
 俺ハ殺サレ,ソノ上,別所ニナッテシマッタ!
                                
(3)
 俺ハ別所ニ殺サレテ...ソノ上,別所ニナッテシマッタ!
 訳が分からない.頭がヒートアップしそうだ.
 俺はトイレに駆け込んだ.やり場の無い怒りをぶつけるかのように,壁にエル
 ボーを食らわせた.
 すると,突然トイレの電球が切れてしまった.
 ふと,恋人の秋穂の家に行った時のことを思い出す.
 キッチンと部屋の蛍光灯が同時につかなくなったのだ.
 『だめになるときは,まとめてだめになるんだね』と秋穂.
 『あの一本は自分がだめだとは思っても見ないだろうな』
 『そういうのが一番困るんだよね』
 ...いかん,回想に浸っている場合じゃない.
 俺は何とかして,電球を取り替えた.
 トイレから出て,ふと部屋の中を見たとき,俺の問題が全く解決していないの
 に気付いた.
 部屋の真ん中で,「俺」の死体がくの字形に横たわっていたのだ.